それでも虹は美しい

「理由を知っていても,その美しさは変わらない」

『竜の学校は山の上』九井諒子 / 今っぽい漫画

ゲームの電源を切った後、主人公たちは何をしてるのか考えたことはありませんか?

僕が好きなRPGはプレイヤー側にそんな余裕を残してくれている気がします。たとえば、ドラゴンクエスト3で一緒に冒険していた商人はあの町で上手く暮らせているのか、などと考えてみるのです。

 

『竜の学校は山の上』の作者の九井諒子も同じような遊びをしていたんじゃないかな。「西には竜がいる」というウェブサイトをしてはった頃からRPGネタが多かったように思う。いま売れてる『ダンジョン飯』も同じ路線だし、練られてて面白い。

九井諒子の漫画はテーマの扱い方が現代的で上品なところが好きだ。

読んでない人がいるならとっとと買うべき。めっちゃ面白いよ。

【収録作品】
『帰郷』
『魔王』
『魔王城問題』
『支配』
『代紺山の嫁探し』
『現代神話』
『進学天使』
『竜の学校は山の上』
『くず』

 

一つ一つの話が素晴らしいのは言うまでもなく、短編の並べ方が上手い。ひとつ前の話と同じようなテーマを違う角度で書いたものを後に持ってくるから広がりが出る。ほんとに真面目に考えてる人なんだろうな。

あまり一つ一つ感想を書くと、流れを切ってしまうような気がするのでまとめつつ感想を書いてみた。

『帰郷』、『魔王』、『魔王城問題』『支配』はRPGの世界観の中で展開される話で、作者はゲームで語られえないエンディングのその後について描いている。戦いが終わり勝利したからといってハッピーエンドにならないことは、テレビや新聞での中東などのニュースを見ていればいやになるほど知っていると思う。作者はその点に関して感傷的になりすぎず、しかし登場人物に優しく描いている。『魔王城問題』の後に『支配』を持ってくるバランスが絶妙。感傷的にさせすぎず、上から目線でもない書き方が良すぎる。

『代官山の嫁探し』以降は日本っぽい世界が舞台になる。『現代神話』で描かれる、別の属性を持った人間同士の話が素晴らしい。違うグループに属した個人に対して、属してるグループのレッテルを貼ってしまい、個人を見ないことがある。そういうステレオタイプに対して、属してるグループの違う夫婦と、上司と部下という二組の関係性からツッコミを入れている。上司と部下の会話がいいし、夫婦の話の奥さんのそれぞれのグループから一歩引いた見方が上品。

『進学天使』の才能にうまく折り合いをつけられない少女とその子が気になる少年の間の甘酸っぱい感じがすごくいい。恋の始まりを描くのが上手い人だと思う。結末の付け方も余韻が残っていい。これで誰か映画作ってくれないかなー。絶対見に行くのに。ドローンもあるから空撮もなんとかできるっしょ。

一番好きな短編は『竜の学校は山の上』で、この話は竜が現代に存在している世界にある山の上の大学が舞台になっている。研究してると、僕は面白いけどこんなことがなんの役に立つんだろうと思う時もある。そういう時にこの短編を見ると勇気づけられる。このあとに『くず』を持ってくるバランスもいい。

個人と個人は別々の人間であるということを土台に書かれているからかっこいい話しになるんだと思う。みんなそう思うでしょー、とか、人間なら当たり前だ、みたいな安易な考えを描かずに、異なった考えを持つ人同士の会話を描き、着地点を見つけるところがほんとに上品だと思う。

漫画書いてくれてありがとう。

 

そしてここまで読んでくれた人ありがとう。文体が定まらなくてごめんなさい。